2024/02/06

衛星リモートセンシング



衛星リモートセンシングの可能性と様々な分野における革新的活用

 リモートセンシングとは、人工衛星や航空機で大気や地表の広域観測を行う手法で、主に環境観測や地表面形状、水質・水温、気象状況の観測などに利用されています。

初期は気球や航空機からの航空写真が主でしたが、人工衛星の開発により地球規模での観測が可能になりました。
1972年に米国が「ランドサット1号機」を、日本も1987年に「もも(MOS-1)」を打ち上げ、今では多くの地球観測衛星が稼働しています。

データ解析技術の進歩やセンサー性能向上、情報通信技術の発展により、リモートセンシングの利用範囲は拡大し、最近ではドローンやレーザーセンサー搭載船舶なども増えて(※1)いますが、今回は、衛星のリモートセンシングについてお話しします。

※1環境展望台、環境技術解説リモートセンシング、https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=86、2024年1月30日

SpaceXやJAXAの宇宙分野における事業

SpaceXやJAXAによる宇宙分野での実施事項を見ていきましょう。

▶︎SpaceX

 アメリカ合衆国の宇宙輸送サービス会社で、2002年に実業家のイーロン・マスク氏によって設立されました。主な目的は、宇宙へのアクセスコストを下げることで、最終的には人類を火星に移住させることです。
 直近の主な取り組みでいうと、再利用可能なロケット技術の確立、商業宇宙飛行の立ち上げ、Starlinkプロジェクトなどがあります。
2022年の世界におけるロケット打ち上げ約180回のうち、スペースXの打ち上げは1/3にあたる61回を占めました。
Starlinkプロジェクトでは、衛星とスマートフォンが直接接続できるサービスの展開を目指しており、リモートエリアやインターネットアクセスが限られている地域に高速インターネットアクセスを提供することを目標に小型衛星の低軌道配置を進めています。  

▶︎JAXA

JAXA(日本宇宙航空研究開発機構)は、日本の国立研究開発法人であり、日本の宇宙開発および宇宙研究する主要な機関です。2003年に設立され、衛星開発と打ち上げ、国際宇宙ステーションへの補給物資輸送や宇宙科学と宇宙探索などにおいて重要な役割を果たしています。
 JAXAはリモートセンシング技術を活用して様々な地球観測プロジェクトを実施しています。
衛星を利用して地球の大気、海洋、陸域、農林水産業、土木・インフラなどの幅広い分野の観測データを収集しています。これにより、気候変動、災害情報環境モニタリングなどの分野での応用が可能となります。
 具体的には、JAXAの地球観測衛星により、最新の地球の姿や研究開発成果が収集され、公開されています。地球観測データの利用相談も行っており、研究者や関連業界の方々がこれらのデータを活用できるようにサポートしています。(※2)

※2 JAXA第一宇宙技術部門、人文社会学での地球観測衛星データ利用(第1回)、https://earth.jaxa.jp/ja/earthview/2023/11/29/7866/index.html、2024年1月31日

世界における衛星リモートセンシングの種類と特長

 衛星リモートセンシングでは、多彩なセンサーを使用して地球上の様々な現象や物体を観測します。これらのセンサーは大きく受動型と能動型に分けられます。(※3)

▶︎受動型センサー

  1. 可視・近赤外センサー:物体から放射される太陽光を観測し、植物の生育状態や土地の利用状況などを把握できます。
  2. 熱赤外センサー:物体から放射される熱赤外線を観測し、気象衛星で使用されることが多いセンサーです。海水面温度や雲の温度などの観測に利用されます。
  3. パンクロマティックセンサー:白黒の光を観測し、高い解像度で地表の画像を得ることが出来ます。
  4. マルチスペクトルセンサー:複数の波長の光を観測し、地表の様々な特性を捉えます。
  5. ハイパースペクトルセンサ:マルチスペクトルセンサーと比べてより多くの波長帯を観測できるため、対象物の詳細な物性や性質を明らかにすることが可能です。例えば、植物の種類や作物の状態、鉱物の分布など多彩な情報が得られます。(※4)

▶︎能動型センサー

  1. ライダー:レーザー光を照射し、反射して戻るまでの時間から距離を計測します。大気中のエアロゾルや森林の三次元構造などの観測に用いられます。
  2. レーダー:マイクロ波を発射し、対象物の散乱の強さを測定します。天候や昼夜を問わず地表面や地形の変化、森林伐採などの把握に使用されます。

 これらのセンサーは、それぞれ異なる種類の情報を提供し、災害監視、環境変化の監視、農業、都市計画、気象観測など幅広い分野で活用されており、技術の進化は継続中のため
新しいセンサーの開発によってさらに多様なデータが得られるようになっています。

 また、衛星リモートセンシングの特長として、広域性、対地表障害性、周期性、均質性が挙げられます。(※5)

▶︎ 広域性:数10km~数1,000kmの幅をほぼ同時に観測することが出来る。
▶︎ 対地表障害性:災害や国境などで、人が現地に行けないような場所を観測することが出来る。
▶︎ 周期性:衛星の回帰軌道に合わせて同じ場所を一定の周期で観測することが出来る。また、衛星が静止軌道にある場合は、同じ場所を常時観測することが出来る。
▶︎ 均質性:1回の観測で撮影したシーン内の太陽光などの条件が比較的均一である。

※3環境展望台、環境技術解説 リモートセンシング、https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=86、2024年2月1日
※4一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構、事業紹介 HISUI ISS搭載型ハイパースペクトルセンサ、https://www.jspacesystems.or.jp/project/observation/hisui/、2024年2月1日
※5内閣府、衛星データをビジネスに利用したグッドプラクティス事例集について、https://www8.cao.go.jp/space/goodpractice/jireisyu.html、2024年1月30日

IoTBankのGeoPitaで活用している衛星

 IoTBankでは位置情報を取得するために位置情報を提供する衛星を活用しています。
リモートセンシング衛星と位置情報衛星は目的と機能が異なり、基本的に異なる衛星を利用しています。
 リモートセンシング衛星は地球の様々な物理的特性や現象を観測るために設計されたもので、地球環境の研究や災害監視、資源調査などを目的としています。
 一方、位置情報衛星(例えば「みちびき」)は、地球上の特定の位置を特定するために使用され、ナビゲーションや地理情報システム(GIS)、弊社のGPSトラッカーなどに利用されています。

今後リモートセンシングの技術で利用が見込まれる業界

 衛星リモートセンシングの利用が見込まれる業界は多岐にわたります。
 最近では、技術の進歩により小型衛星の性能が向上し、コストも低減しています。その結果、小型衛星を用いた頻繁な観測サービスが広く利用されるようになり、衛星から得られるデータの品質と量が大幅に改善しています。これらの小型衛星から得られるデータは、高価で高解像度の衛星データと同等の役割を果たすようになりました。
 また、これらのデータはビッグデータの一部として、地上の様々なデータと組み合わせられ、機械学習などの最新の技術を用いることで、新しい価値やビジネスチャンスの創出が期待されています。

▶︎分野別のリモートセンシング利用例※5

資源探索分野岩石・鉱物の分類による鉱物資源探査、海表面の油徴による
海底油田の探査、堆積盆における石油資源探査等
農業分野農地の作付分類、作物の収量や品質の推定、収穫適期の決定等
森林分野樹種分類、森林成長モニタリング、森林の枯損検知、森林管理等
環境分野大気汚染・水質汚染・土壌汚染等の環境汚染分布等
土地利用分野水域・森林・草地・裸地・市街地・工場等の土地利用(被覆)分類等
海洋分野海水面温度、海色等
防災分野地震防災、火山防災、土砂防災等

▶︎衛星情報を利用したブランド米の生産支援※5

 青森県のブランド米「青天の霹靂」の生産支援のため、衛星情報が活用されています。
具体的には、衛星画像を用いて収穫適期マップを作成し、Webアプリを通じて農家に提供しています。これにより、農家は適切な収穫時期を把握することができます。
また、玄米のタンパク質含有率や土壌の肥沃度も衛星画像から推定し、そのデータを基に生産指導が行われています。

 衛星データの活用方法としては、稲の育ち具合の差が色合いの違いに表れるため、衛星で水田の色を観測しています。また、収穫適期は気温の積算情報と衛星画像による色合いから水田ごとに予測されます。
 さらに、米のおいしさを左右するタンパク質含有率や土壌の肥沃度は、それぞれ稲や土の色の違いから人工衛星の画像を用いて推定しています。

▶︎土砂崩れ災害検出など、衛星データのAI解析事業※5

 衛星データの解析における人手による判読業務の負荷軽減を目指し、土砂崩れなどの災害を検出するAI解析システムです。このシステムは、光学衛星データを入力すると、土砂崩れ箇所を自動で検出し、該当箇所を表示・提供します。
 また、海面上のオイル流出箇所もSARデータ(合成開口レーダ)を入力することで高速に自動検出し、該当箇所を表示・提供します。

 衛星データの活用方法として、AIを用いて土砂崩れやオイル流出箇所の検出を行うことで、熟練の検査員が画像データ一枚あたり数十分かけて目視確認していた作業を、一秒以内で処理することを可能にしました。
さらに、被災箇所と被災していない箇所を学習する二つのAIを組み合わせることで、少ない学習データからでも高精度に災害箇所を検出できるシステムを構築しました。
これにより、衛星データのより一層の活用が期待されます。

※5内閣府、衛星データをビジネスに利用したグッドプラクティス事例集について、https://www8.cao.go.jp/space/goodpractice/jireisyu.html、2024年1月30日

最後に

 本コラムでは、衛星リモートセンシングについてご紹介しました。今後は衛星の利用がより身近になっていくことが感じられました。IoTBankでは、GPSトラッカーをはじめ様々な技術を取り込んだサービスに挑戦していく予定です。
 次のコラムでは、衛星リモートセンシングにおける農業事例についてご紹介したいと思っています。
 ご興味がある場合やご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

衛星リモートセンシングの可能性と様々な分野における革新的活用